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「出店者とお客をつなぎ、 地域にマーケット文化という見事な織物をつくる」水野俊弥さん(前編)【小商いで自由に暮らす】

コーヒー屋「珈琲 抱/HUG」を経営する水野俊弥さんは、房総いすみ地域の〝マーケット黎明期〟を知るマーケットプロデューサーでもある。当地のマーケット文化の発端となった「ナチュラルライフマーケット」の運営に関わり、震災後に立ち上げた「房総スターマーケット」を、毎回1500人を集客する大イベントにまで育て上げた。

地域のマーケット文化を牽引してきた水野さんが感じている、マーケットが地域に果たす役割と、これからのあり方とは?

「珈琲 抱/HUG」の水野俊弥さん。

水野俊弥(みずの・しゅんや)
房総スターマーケット実行委員。2006年、妻と子ども一人を連れて東京から夷隅郡大多喜町へ移住。2007年から「ナチュラルライフマーケット」の運営に関わり、2010年に自身のコーヒー店「珈琲 抱/HUG」をオープン。2011年に「房総スターマーケット」を立ち上げた。

店が集まるから客も集まる

─水野さんの店「珈琲 抱/HUG」は、房総いすみ地域でもかなり山側の大多喜町にあります。もともと田舎でコーヒー屋を開きたいという思いがあったんですか?

水野 いえ、ずっと東京在住だったし、都内に店を持ちたいと思ってました。でも東京は競合が多いし、土地も家賃も高い。現実的にむずかしいからあきらめたんです。

東京ではコーヒー豆の焙煎小屋を借りて豆の販売をしていたんですが、焙煎時に出る煙が問題になって、田舎に移ることにしました。別の仕事をしながら、豆の焙煎を細々とでも続けていきたいと考えたんです。だから最初は店を開くつもりもなく、おもに都内のお客さんから直接注文を受けてコーヒー豆を焙煎し、発送していました。

──水野さんが移住した2006年当時は、いわゆるマーケットはなかった?

水野 なかったですね。自治体が主催する産業フェアや商工会議所関係のものはあったけれど、いま開催されているマーケットとはまったくの別物。そんなとき、知人から「イベントを一緒にやりましょう」と誘われたんです。これがのちの「ナチュラルライフマーケット」。
 
発起人は、マクロビオティック料理家で「ブラウンズフィールド」を運営する中島デコさん、天然菌のパン屋「タルマーリー」の渡邉さん夫妻、今もいくつかのマーケットを主催している市塲明子さん、それに有機農家の人など、5人くらいのメンバーでした。

中島デコさん。

マーケットを開催したい理由は、メンバーそれぞれにあったと思います。デコさんはブラウンズフィールドのカフェをオープンしたばかりだったし、ほかのメンバーも自分の商品の販路開拓に苦労していたので、みんなで集まって地域を盛り上げて、それぞれの商品を売っていこうというのが大筋の目的。店舗を持っていない僕は、どちらかといえばお手伝いという立場でした。

──それぞれが個別で販売するよりも、マーケットというイベントを起こして販売したほうが、お客を集められるだろうということですね。
 
水野 そうです。あとはメンバーのほとんどが移住者で地域に頼れるツテがなかったことも、「じゃあ、自分たちで(売場を)立ち上げよう」ということにつながったんだと思います。それで2007年に20〜30くらいの出店を集めて1回目のマーケットを開催。この初回がかなり好評で、その後も回数を重ねていったというわけです。
 
店を持っていなかった僕も、初回の「ナチュラルライフマーケット」では1日に150〜200杯くらいのコーヒーを売りました。とにかく、あれば売れるという感じ。僕だけじゃなく、ほかの出店者も、みな驚くくらいすごい売れ行きだったんです。

小商いで自由にくらす人たちにとっても、房総いすみ地域で多数開催されるマーケットは大きな存在となっている。

──マーケットというイベントに潜在的な需要があったんですね。

水野 2007年というとスマートフォンやSNSの出始めで、インターネットはありましたが、出店者の実店舗の情報はあまり出回ってなかったし、場所がわかっても広範囲に点在している。今のようにグーグルマップのナビで気軽に行けるわけじゃなかったですしね。つまり、「行ってみたいけれど行きにくい店」が一同に会するということで、盛り上がった面はあったと思います。
 
ナチュラルライフマーケットは年1回くらいの頻度で開催しました。僕自身は実店舗の開店を2010年9月に控えて忙しくなり、途中で運営からは抜けましたが、タルマーリーの渡邉夫妻が先頭に立って引っ張っていました。房総エリアには当時、食や環境への意識の高い人たちが次々と移住してきていたので、〝オーガニック〟がひとつの大きなテーマだったナチュラルライフマーケットは、いつもたくさんのお客さんで賑わっていました。

震災後の沈滞を打開するために新しいマーケットを開催

──ナチュラルライフマーケットが盛り上がるにつれて、ほかのマーケットも増えていきましたか?

水野 いえ、当時はほとんど増えることはなかったと記憶しています。まだムードとして機が熟していなかったのかもしれません。それでナチュラルライフマーケットが終了した頃、僕の店も始まり、いよいよ本腰を入れるぞと気を引き締めていた直後の2011年春に…

──東日本大震災が起きた。

水野 そう。房総エリアもものすごく揺れて、今でこそ放射能の影響はほとんどないことがわかっているけど、当時は「ここに住んでいていいのか?」と不安で、みんながそわそわしていました。そのうち、食や環境に意識の高い仲間たちの多くが、四国や九州、沖縄へ向けて出て行ってしまった。あの人も、あの人もかと、毎月のように。

震災後に水野さんが中心となって立ち上げた、房総スターマーケット。

──震災前と震災後で、地域の移住者はかなり入れ替わったんですね。ナチュラルライフマーケットも震災前で終わっているし、大きな分岐点ですね。

水野 そう言えると思います。この界隈ではすごく重要な存在だった「タルマーリー」の渡邉夫妻も、震災だけが理由ではないけど、岡山へ引っ越して行きました。観光客もまったく来なくなり、僕自身の店も、オープンしたてというのに閑古鳥が鳴いていた。まわりに聞いても飲食関係の仲間はやっぱり「震災の影響で全然ダメ」と暗い顔。困っている人がたくさんいて、相当ひっ迫した状況でした。
 
そこで思いついたのが、再びマーケットを開こうということでした。もう一度にぎわいと活気を取り戻すにはイベントが一番手っ取り早いし、震災で落ち込んでいるといっても、地に足をつけてちゃんとやり続けている人もたくさんいたんです。だから「おれたちは負けずにしっかりやってるぞ」ということもアピールしたかった。
 
ナチュラルライフマーケットのとき、僕の立場は、いち出店者プラス連絡係程度。でも関わっていたおかげで全体の流れは見えていたので、本当に見よう見まねで、新しく「房総スターマーケット」を立ち上げるべく動き出しました。出店者への連絡、関係者への声かけ、チラシ作り、マップ作り、デザインやロゴの制作など、ほうぼうにお手伝いしてもらって、みんなで走りまわって2011年11月の初回開催に漕ぎ着けました。それだけみんな「何かやらなきゃ!」と思っていたんですね。

face tofaceのコミュニケーションが人を繋げ、地域を豊かにする。

そして、マーケットが地域を元気にし始めた

──新マーケットの初回の手応えはどうでしたか?

水野 出店者は房総南部の鴨川市や北部の香取市からも来てくれて、総勢40店舗。房総全域としても震災後に相当、元気がなくなっていて、かなり危機感が広がっていたんです。だから、お客さんが果たして集まってくれるかどうか、とても不安だった。そうしたら800人もの来場者があったんです。
 
開店から半年で震災に見舞われた僕のコーヒー店は、当時、1日のお客さんが5組くらいで、せいぜいコーヒーが10杯出る程度でした。それが房総スターマーケットでは、1日で200杯。もう必死にコーヒーを淹れ続けて、ほかの店を見てまわる余裕もない。出店者は全員がそうでした。
 
それから4ヵ月後に2回目を開催して、その後は半年ごと年1回のペースでやっていこうと決め、2011年から2015年まで9回やりました。するとそのうち、毎週いろいろな場所でマーケットが開催されるようになっていったんです。

マーケットがあちこちで始まった。写真は、2016年にカフェ『port of call』の敷地で始まったマーケット。

──震災後の停滞した状況を、房総スターマーケットの盛り上がりが多少なりとも打破したのを見て、今度は自分たちもと後へ続く人たちが出てきたんですね。
 
水野 マーケットがここでも始まった、あそこでも始まったと聞こえてくるのは、すごく面白かったし、ワクワクしましたね。やがてマーケットを渡り歩く出店者やお客さんも少しずつ増えていきました。

– INFORMATION –

『「小商い」で自由にくらす ~房総いすみのDIYな働き方』

いすみ市在住で、全国の地方を数多く見てきた著者が、当事者へのインタビューを通じて、好きを仕事にするために「小商い」で自由に働き、大きく生きる可能性を様々な視点から考察。今、地方はのんびり暮らすところではなく、夢が叶う場所になった。仕事がネックとなって地方移住に二の足を踏んでいた人にも勇気が湧いてくる一冊!

小商い実践者へのインタビューのほか、「小商い論・田舎論」として、いすみ市在住の中島デコ(マクロビオティック料理家)、鈴木菜央(greenz.jp)、ソーヤー海(TUP)の三氏と青野利光氏(Spectator)にインタビュー。巻末では佐久間裕美子氏(『ヒップな生活革命』)と、アメリカのスモールビジネスとの対比について論を交わす。※Amazon.co.jp「社会と文化」カテゴリー1位獲得。

著者:磯木淳寛
発行:イカロス出版
価格:本体1,400円+税
https://www.amazon.co.jp/dp/4802203004

– INFORMATION –

好きを仕事にしたい人のための実践道場。
「小商いで自由に暮らす入門」クラス 5/8(月)開講!

「地方で好きなことをして食べていきたい」また、「ゆくゆくは地方でお店を持ちたい」と思ったことはありませんか?

好きなことを仕事にして日々暮らしたい!というときに、今、地方という舞台はとても可能性のある場所になっています。ただのお金稼ぎではなく、自分を表現して、自分と地域を豊かにする「小商い」は、そのためのとても効果的なツールです。

自分の思いを仕事にしていことに真正面から取り組むこと。そんな充実感を得ていくことにチャレンジしたい方に、「DIY」で「face to face」で「LOCAL」な商いを学ぶ、「小商いで自由に暮らす入門」を始めさせて頂きます。

【ファシリテーター】

磯木淳寛(『「小商い」で自由にくらす』著者)
食と地域を耕す編集者/プランニングディレクター。自然と共生する価値観と地域の可能性をテーマに執筆・編集・企画。多方面のプロジェクトに関わる。地域の物語を編む合宿型ライター・イン・レジデンス「ローカルライト」を主宰し、関東、関西、北陸、九州で開催。執筆媒体は、ソトコト、Be-Pal、季刊自然栽培、greenz.jpほか。連載は、季刊自然栽培「見えないものを見る」。各地のローカルメディアの編集・制作にも携わる。著書『「小商い」で自由にくらす~房総いすみのDIYな働き方』(イカロス出版)を2017年1月に発刊。千葉県いすみ市在住。http://isokiatsuhiro.com/

【ゲスト】

水野俊弥さん
『珈琲 抱/HUG』店主。都内で輸入家具販売会社勤務を経て、32歳で東京・南青山の自家焙煎珈琲店で珈琲の世界に足を踏み入れる。2006年、千葉県大多喜町に移住し、2010年に古民家の納屋を改装して『珈琲 抱/HUG』をオープン。2011年からは『房総スターマーケット』を立ち上げ、毎回1000人以上を集める地域のマーケットに育てた。http://chiba-ken.jp/hug/
※ほかゲスト調整中

【講座日程】

第1回 5/8(月) 19:15-21:45
第2回 5/19(金) 19:15-21:45
第3回 5/27(土) 10:00-17:00 ※フィールドワーク
第4回 6/6(火)  19:15-21:45
第5回 6/18(日) 10:00-17:00 ※マーケット出店
第6回 6/26(月) 19:15-21:45

【会場】

グリーンズオフィス
東京都渋谷区神宮前2-9-15アズマビル1階
東京メトロ 千代田線 「明治神宮前」駅、銀座線「外苑前」駅、副都心線「北参道」駅、JR「原宿」駅からそれぞれ徒歩10分

【参加費】

42,000円(一般8名)
36,000円(学割・遠方割各2名)
40,000円(people割引2名)

【定員】

14名
※申し込みは先着順です。定員に達し次第申し込みを締め切らせていただきます。
※最低開講人数は8名です。開講の決定は初回授業の1週間前までご連絡いたします。

【申し込み先】

https://greenz.jp/event/koakinai/

締切: 5月2日(火)22:00
※定員に達し次第、受付を停止します。お早めにお申込み下さい。